言の葉の雨が降りしきる

結局のところアイドルが好き

松村北斗くんに惹かれた日の話

 


松村北斗くんを知ってから、ちょうど3ヶ月経った。

忘れもしない7月24日、FNS歌謡祭。私は恐らくそのとき初めて、SixTONESというグループのパフォーマンスを浴びた。名前だけは知っていた。この綴りでストーンズと読むことも知っていた。KAT-TUNリスペクト系らしい、という具体的なんだか抽象的なんだかよくわからない情報も持っていた。そのときの私はつけっぱなしのテレビをただぼんやり眺めているだけで、意欲的にSixTONESを知ろうという気持ちはなかった。だから、ああ、すごいな、かっこいいなと思うだけだった。
黒を基調とした衣装はシックで、シルエットが美しくて。夜桜を思わせるようなライトアップは雅だ。花びらがひらひら舞っていて綺麗。楽曲はどこかで聞いたことがあるような気がする。こういう曲すきだなあ。歌が上手い、ダンスもかっこいい。SixTONES、こんな感じなんだあ。
多分そんな感じ。Twitterのタイムラインでたびたび見かけるSixTONESのこと、ちょっと見ておこう、くらいの気持ちだったから、ハマるつもりはなかった。なかったのだ、本当は。

パフォーマンスを見終えた後、何の気なしにTwitterを開いた。トレンド上位にあがっていたSixTONESの文字に、思わず指をすべらせた。ファンというのは本当に素晴らしい広告塔だと思う。ここで新規を獲得しない手はないと言わんばかりにダイレクトマーケティングが溢れていた。今出演していた彼らはそれぞれ誰で、どういう人で……という懇切丁寧な紹介文が流れていたら、そんなの、見てしまうに決まってる。数あるダイマのなかで、私を射止めたのはある一文だった。


「理想のデートは人形浄瑠璃を見た後心中」


この一文を読んだ時、私は雷に打たれたような心地がした。心中、心中……心中が理想……? アイドルが……!?

色々な誤解を恐れずに言うと、私は“心中”という事象が好きだ。というか、関心がある。
人は独りで生まれ、そして独りで死んでいく。本質的に孤独な生き物だと思う。だからこそ、死を愛する人と分かちたい。死がふたりを分かつまでなんて言わずに、死そのものをふたりで分け合いたい。その愛のかたちは美しくもあり、いびつでもある。生きることではなく死ぬことを愛の究極として選ぶのはどこか投げやりなほの暗さがあって、現実で考えるとやっぱり痛ましいのだけど、そういうところもひっくるめて蠱惑的だと思う。
そういうわけだから、この一文には惹かれるものがあった。きょうび心中が好きだなんて言うオタクは山ほどいると思うけれど、まさかアイドルが理想として言葉にするなんて。

彼の名は、松村北斗さんと言うらしい。
一度気になってしまったら。一度名前を覚えてしまったら。調べずにはいられないのがオタクの性だ。
まず、Twitterで「松村北斗 心中」と検索をした。物凄く欲にまみれているけれど見逃して欲しい。
そうしたら、先程のJAPONICA STYLEで披露していた振りが話題になっていた。何も考えずぼんやり見てしまったので改めて見返す。言われていたのは冒頭のソロパートの振り。

彼は右手に持った扇子を自らの首に突きつけ、斬首するように横に振った。と同時に、緩めたもう片方の手から桜の花びらがぶわりと吹き出した。

つまり、扇子で首を斬り、桜の血しぶきが噴く振り付け。
私は何度も何度もその振りを繰り返し見てしまった。繰り返し見たのち、呟いた。
文学じゃん……。
文学全然知らんけど、これはもう絶対近現代文学じゃん…………。
心中ときてこれだ。松村北斗さんは文学アイドルに違いない。もうこの時点で調べるところまで調べつくそうと決意した。(文学アイドルって何?)

容姿をしっかり見たくてGoogle画像検索もしたのだけど、好みの顔……と呟かざるを得なかった。着物が似合いそうな雅な顔立ちだ。私は塩顔と呼ばれるような顔が結構好きなので、しばらくまじまじと眺めてしまった。
その勢いのままに、今度はYouTubeを見に行った。ジャニーズでありながらYouTubeを解禁し動画をアップしているということはうっすら知っていたのだけど、まだJrなのにMVがあるのは驚いた。

 

 

ついさっきまで見ていたFNSではさらっと聞いてしまったけれど、改めて聞くとめちゃくちゃ良い曲だ。和の曲でありながらスタイリッシュな感じもあって、サビがとても耳に残る。水槽の水を弄ぶ北斗くんのアンニュイな雰囲気がすごく良い。(のちにこの演出は自己プロデュースと知って心底驚いた)
良い感じにエンジンがかかってきたので、再生回数が多い順に見ていくことにした。これが正しかったのかわからない。たぶん正しかったんだと思う。

 

 

 
もう、何も言わずに再生してほしい。
開始15秒で変な声が出た。
えっ、今の、今のが北斗くんだよね? 北斗くんで合ってるよね? と脳内で騒ぎ立ててしまった。
画像検索でも、JAPONICA STYLEでも、かっこいい顔だなぁと思ったし、好きな顔だなと思った。けれど、15秒に出てくる北斗くんを見た途端、それまでのあらゆる感情が吹っ飛んだ。無情にも、吹っ飛んだ私を置き去りにして動画は進む。

そして40秒。

「頬を撫でる湿気を帯びた風」だ。

あの風がすうっと通り抜けたあの瞬間、私はもうだめだった。
柔らかくて、繊細で、そして色気を滲ませた声が耳の中で溶けて消えた。ワンフレーズ歌い終えた彼は視線を落とし、目を伏せた。口元にはわずかに笑み。

あらゆる感情、語彙が吹っ飛んでいた私の元に、ひとつだけ言葉が落ちてきた。

美しい。

彼は、美しい男だ。
ただ顔の造形が美しいというだけではなくて、視線の向け方、眉の動かし方。表情全てが美しかった。

松村北斗は美しい。
動画2つ目にしてこの世の真理に辿り着いてしまった私は、それから狂ったように動画を見漁った。
優しいフォロワーから「北斗くんが気になるなら初期から順に見ていくといいですよ」というアドバイスを頂いたのもあり、古いものから見ていったのだけど、なるほど確かに、納得した。
文学青年っぽい! というファーストインプレッション通り、初期の動画は良い意味で孤独が滲んでいる感じがあって、陽か陰なら陰寄りだと思った。とはいえ、もちろんそれが全てではなかった。クール系かと思いきや結構お茶目でボケたがり。メンバーとふざけあって笑っているところは休み時間の男子高校生みたい。ボケるだけでなくツッコミもできちゃう。発言の一つ一つにキレがあって、頭の回転が早いのがよくわかった。本人が纏っている冴えた空気も相まって、グループをキュッと引き締める力があるような気がした。黒い服を着たら一気にコーディネートが纏まるあの感じに似ている。メンバーカラーも黒だし。
そんな北斗くんも、回を追うごとに雰囲気が柔らかくなっていった。どんどん口数が増えていって、不思議な発言をしたり、それをスルーされたり、ふわふわしてたり、メンバーにちょっと変な絡み方してたり。物凄く変わった、別人になった、とは言わないけど、陰寄りだったのが陽に近づいていった感じがあって、フォロワーが順番に見ていくのが良いと言った理由がよく分かった。確かにこれは、この変化を見ていく面白さがある。
別人だとは思わないから、どちらの方が良い、というのも特に思わない。裏表があるだとかキャラがいくつもあるというよりは、色々な要素が上手く同居している人なんだなあと思った。陽の部分と陰の部分、柔らかい雰囲気と冴えた雰囲気が決して喧嘩することなく上手く溶け合っているのは、むしろ人間らしいと思う。

他にも、ダンスはダイナミックに緩急つけて踊るタイプだったり、ファッションが好きでお洒落さんだったり、料理するときの手際が良かったり。意外とビビりで大きい音に人一倍リアクションしてたり。雰囲気が変わったとは言ってもガードが固いのは相変わらずで、ホテルではしっかりドアガードしてたり。見れば見るほど新しい発見があって、知れば知るほど好きになった。

不思議な感覚だった。新しい側面を知るたびにギャップを感じて、けれど妙な納得感もあって、当たり前のように好きな気持ちが増幅する。本当に、不思議な体験だった。


ここまでは彼の内面について取り上げた。人間らしい、とあえて表現したけれど、ことパフォーマンスとなるとまた違った表現をしなくてはならない。

彼のパフォーマンスは見られる限りたくさん見た。公式チャンネルに投稿されているコンサート映像や、少年倶楽部でのパフォーマンス。動画に限らず、雑誌の写真なんかも。

なんて言ったらいいのだろう。

色気のある歌声。感情の込め方。溶けるように混じる吐息のあでやかさ。
指の先まで意識された立ち居振る舞い。
とめ、はね、はらい、という感じの、力を溜めて溜めてふっと流すような踊り方。
曲ごとに、写真ごとにがらりと変わる表情。
例えば、にっと口角を上げた余裕のある笑み。こちらを煽るように挑戦的な眼光。かと思えば、想いを絞り出すように苦しげに寄せられた眉。ここではないどこかに視線を逸らす、憂いを帯びた瞳。

全てが、まるでこの世のものではないように思えた。違う世界にいる、なんていう表現はアイドルに向けるには当たり前すぎるけれど、やっぱりそう表現するしかない。
きっと、北斗くんのパフォーマンスはひとつの作品だ。その視線、表情、歌、踊り、全てが物語を作っていて、そして世界を生み出している。大袈裟かもしれないけど私はそう思った。自分の魅せ方を知っている、というのだろうか。先に述べた扇子遣いや水槽の演出なんかでもそれは現れていると思う。何を武器にし、何を魅せるか。何を求められていて、そして自分は何を見せたいか。

自分の魅力や、何が求められているかをわかっていて、それを体現してくれるアイドルが好きだ。それはたぶん、昔からずっとそう。だからきっと、北斗くんを好きになったのは必然だったのかもしれない。なんて、今だから思う。好きになった当初は自分にびっくりしていて、こういうタイプの人も好きになるのか、と他人事のように思っていた。こうやって文章にしてみるとなるほど好きになるはずだなぁと腑に落ちるから不思議だ。





私は誰かを好きになったときの思い出を書き残すのが好きだ。出会ったときの感動や、好きな人の好きなところを言葉にすることで、いっそうこの気持ちがあざやかになるから。いつかまた読み返して、こんなこと書いてたっけと面映ゆくなるのもまた醍醐味かなと思う。
そういうわけだから色々綴ってみたけれど、北斗くん、そしてSixTONESに出会ってから今まで、たったの3ヶ月しか経っていない。けれど、その3ヶ月はなかなか濃い3ヶ月だった。デビュー発表の瞬間を生配信で見られたこともそのひとつで、本当に幸運だったなあと思う。
デビューが決まってなおいっそう磨きがかかっているSixTONESを見れば見るほど、きっとこれから、もっともっと高いところへ羽ばたいていくんだろうなあと確信できる。それがすごく楽しみで、幸せだ。